オンライン報告書 - 2008 年 訪日企画 - ディスカッション「死刑制度」
資料
1:死刑制度の存置国と廃止国の数と主な国の状況
- あらゆる犯罪に対して死刑を廃止している国:92 一部を除くヨーロッパ アメリカ北部の一部
- 通常の犯罪に対してのみ死刑を廃止している国:11 ブラジル チリ
- 事実上の死刑廃止国 (10 年間刑を執行していない):34 ロシア 韓国
- →法律上、事実上の死刑廃止国の合計:137
- 存置国:60 日本 アメリカ 中国
(引用元:アムネスティインターナショナル日本)
2. 死刑制度の世界地図 (2007 年 9 月 19 日時点)

凡例:
青: 死刑を廃止した国、あるいは死刑を採用していない国
緑: 特段の事情 (戦時など) が無い限り死刑を廃止した国
橙: 少なくとも 10 年間は死刑を執行していない国
赤: 死刑が法定刑として存在する国
(引用元:Wikipedia)
3. 2006 年に死刑執行の多かった国
- 中華人民共和国 (公式発表では 1010 人、一説には 7500 人から 8000 人という未確認情報もある)
- イラン (177 人)
- パキスタン (82 人)
- イラク (少なくとも 65 人)
- スーダン (少なくとも 65 人)
- アメリカ合衆国 (53 人)
- (参考) 日本 (4 人)
4. 死刑廃止国と死刑存続国
宗教・教えは、それを信仰・実践する人々に影響を及ぼしているが、彼らを取り巻く環境・状況により見解が異なることが多い。
ここでは死刑廃止国と死刑存続国にみられる大きな特徴をとらえる。
死刑廃止国
ヨーロッパやアメリカ北部、カナダ、オーストラリアなどキリスト教信仰者の多い国が多い
キリスト教
- キリスト教の「神の前での万人の平等」という基本的思想
- 博愛主義 (すべての人に愛をもって接する、何人も傷つけてはならない)
- 「最後の審判」による唯一絶対の神の裁き (神の意志に反してはならない)
人間には「肉体的な死」―死刑で奪うことができる
「霊的な死」――「最後の審判」によって神がもたらす「人間の下した判決」と「神が下す最後の審判」が異なっていたら神の意に背いたことになるのではないか? - →人間が人間の命を奪う「死刑」は教義にそぐわない
しかし、犯罪の発生状況や今日の多民族化傾向などから、凶悪な犯罪には社会的に何らかの罰を与えるべきだという考えもある
(参考) カトリックにおける死刑に対する考え方
フィリピン (90% 以上カトリック) →死刑廃止
バチカンの死刑における公式声明
- 報復のための死刑は不可
犯罪予防、威嚇のための死刑は人命救助の点から可 - 近代社会においては終身刑によって犯人の再犯および威嚇は阻止されているので全ての命は神聖→死刑反対
- 現代の死刑の多くは「報復」←認めない
しかし、一部の途上国「近代国家並みの懲役制度は自国では不可能」→やむなく死刑
死刑存続国
儒教発祥・社会主義国の中国、儒教思想の残る日本、イスラム教国、アメリカ (北部除く)
儒教
- 五常 (仁・義・礼・智・信) を実践することで五倫 (父子・君臣・夫婦・長幼・朋友) 関係を維持することを教える
- 論理より倫理・道徳を重視 (cf. 社会契約説の生まれたキリスト教観) →上下関係を乱す非五常的な行いに対して厳しい罰則、五倫関係維持のためには重罰をいとわない
社会主義
- 強力な一党体制の政権、権力集中
- 重罰による犯罪抑制効果を期待する傾向 (汚職や麻薬、売春にも死刑が適用されたりする)
- →幹部・権力者たちの地位確保・進退の操作のための権力闘争、密告の増加、膨大な量の政治犯罪
イスラム教
- 唯一絶対の神への忠誠・奉仕
- 信徒同士の相互扶助関係や一体感を重視
- 神から預言者ムハンマドを通じて示されたコーラン、ムハンマドの言行がまとめられたハディース、コーランやハディースを実生活上の規定のためにまとめたシャリーア (イスラーム法) に記されている規則・価値観を重要視
- →上記に反する行いに対して厳しい懲罰、「信徒同士 (家族) の一体感」を乱したとして「名誉の殺人」が行われる地域あり
日本
- 儒教思想のなごり (cf. 韓国)
- 国民の過半数が死刑制度を支持
- →死刑制度が存置
5. 死刑制度に対する存続論と廃止論

死刑存廃問題
世界では、死刑に対してその存続論と廃止論がある。どういった犯罪を重罪とするかは国によって差異はあるが、犯罪者のうち特に悪質な場合においては犯罪者の生命をもって償わせるべきか否か、という論争がいわば死刑存廃問題である。
存続論
- 凶悪な犯罪人は命をもって償うべきである
- 凶悪犯罪に対する社会感情 (特に犠牲者に関係する人々の) を無視すべきでない
- 誤判の恐れがない場合には死刑を認めない理由はない
- 死刑がなくなれば凶悪な犯罪が増える。犯罪を思い止まらせる力 (犯罪抑止力) が死刑にはある
- 国民世論の多数が死刑を支持している
廃止論
- 裁判で誤判は避けられない。誤判で死刑にすると回復不可能である
- 人を殺すことはたとえ刑罰であっても人道に反し野蛮であり、日本国憲法第 36 条 (残虐刑の禁止) に反する
- 国家は殺人を禁止しながら死刑という殺人を認めるのは矛盾である
- 犯罪抑止力が死刑にあるとは実際に証明されたわけではない。廃止しても、そのために悪質な犯罪が増加するとは思えない
- 死刑は人間から改善・改良の余地を奪う
(引用元:実教出版「新政治・経済資料 2007」)
6. 死刑に関する日本国民の意識




(注) グラフ中の「増える」「減る」は、死刑を存置することによる犯罪抑止力の増減である
まとめ:死刑制度
死刑制度は人権という人の最も根本的な生という問題に関わってくる。世界での死刑制度廃止という風潮の中で存続国である日本と、存続国でありながら事実上死刑執行を行っていないロシア。今回のディスカッションを通して、その国に住む国民の意識がどのように異なるかを知ることができた。以下、今回ディスカッションで出てきた意見・発言をそれぞれの視点に分け、ディスカッション結果をまとめる
宗教
| 死刑賛成 | 死刑反対 | |
|---|---|---|
| 日本人 |
|
|
| ロシア人 |
|
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宗教は日本人学生にとってもロシア人学生にとってもあまり身近ではなかったようで、死刑存廃の理由としてあまり強くは主張されていなかった。特に日本人学生はキリスト教についてあまり知らないので、宗教というテーマに関しては議論があまり盛んではなかったようであった。
コスト
| 死刑賛成 | 死刑反対 | |
|---|---|---|
| 日本人 |
|
|
| ロシア人 |
|
コストという観点のため、日本・ロシア側ともに現実的な意見が多く、当然の如くこの観点では死刑賛成に偏った。特に国民の生活レベルに大きな差のあるロシアでは、シビアな意見が出た。日ロともに「罪人より福祉に使うべきだ」という意見で一致した。
遺族意識
| 死刑賛成 | 死刑反対 | |
|---|---|---|
| 日本人 |
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|
| ロシア人 |
|
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感情という主観的なテーマのため、自分の感情を移入して考える人が日ロともに多かった。自分の大切な人を殺されるとなるとやはり報復したいというのが多数派のようだ。死刑賛成派は感情的な印象、対する死刑反対派は論理的な印象であった。
冤罪の可能性
| 死刑賛成 | 死刑反対 | |
|---|---|---|
| 日本人 |
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|
| ロシア人 |
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死刑反対を前提とした観点のため、意見は日ロともに死刑反対に偏った。死刑賛成派はそれに対して「死刑反対の意見は分かるが、死刑廃止の理由としては薄い」と考えているようであった。死刑反対側としては、やはり冤罪は取り返しがつかないと考えた。
国家と秩序
| 死刑賛成 | 死刑反対 | |
|---|---|---|
| 日本人 |
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|
| ロシア人 |
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このテーマではお国柄が強く出た意見はあまりなく、社会という共同体そのものを重視するか、それを構成する個人の命を重視するかという個々人の価値観の違いが出た。
感想
「死刑制度」はメディア等の刺激から誰でも一度は考えたことがあるテーマだと思う一方、普段の学生生活では他人と意見を交わして、深く考えることはないテーマでもあると思う。その「死刑制度」のディスカッションで、異なった環境・社会状況で育ってきたロシアと日本の学生が互いに自分の意見をぶつけ、ロシア・日本人学生ともに新しい視点に出会うことができたのではないかと思う。ロシアは事実上の死刑廃止国であるにもかかわらず今回ディスカッションに参加したロシア人学生の少なくない人数が死刑の必要性を訴えていた。こうした生の声は、私たち学生が普段使っている教科書からは知ることができない。また、事前の勉強会では死刑廃止とキリスト教 (カトリック・プロテスタント) のつながりについて調べたのだが、ロシア人の学生から見落としていた「犯罪者とロシア正教の考え」について教えてもらい、とても勉強になった。このディスカッションを通じて両国の学生が、学生としてものを考え、それを 3 ヶ国語を駆使して伝えるという経験を積めたと思う。